研究内容

植物とウイルス、微生物、虫が関わる世界 〜見えないやりとりと農業への応用〜

私たちが食べている野菜や果物は、土や太陽、水だけで育っているわけではありません。見えないところで、ウイルス・微生物・昆虫・植物のあいだには複雑なやりとり(=高次相互作用)があり、これが作物の健康や育ち方に大きく影響しています。

ウイルスが引き起こす病気

植物がウイルスに感染すると、**葉にモザイク模様が出たり、形がゆがんだり、背が低くなったり(矮化)**することがあります。逆に、感染しても病気を発症しないウイルスも多く存在します。なぜ病気を発症するのか(ウイルス病原性)の分子メカニズムに興味を持ち解明を目指しています。

ゲノム編集で植物をウイルスから守る

こうした病気から作物を守るために、**ゲノム編集(CRISPR/Cas9)**という技術を使って、ウイルスに強い植物をつくる研究が進められています。ウイルスに必要な植物側の因子に変異を入れることで、ウイルスが利用できない=感染出来なくなりピンポイントで抵抗力をつけられます。

ウイルスを“見える化”する技術

ウイルスは目に見えないので、早く・正確に見つけることが重要です。私たちは、感染しているかどうかを早く調べる診断法も開発しています。

データとAIが農業を変える

DNAやRNAの大量シーケンス解析や、AIを使ったデータ解析の積極的な活用が大切になってきました。ドライデータにおけるウイルスの検出、ウイルスや植物の防御メカニズムの進化や対抗防御のしくみの解明などに役立っています。これらの情報をもとに、新しい病気に強い作物の育種も進めています。

ウイルスを逆に利用する⁉

実は、植物ウイルスをうまく使って、ワクチンなどの薬を作る技術も開発しています。植物にワクチンのもとになるタンパク質をつくらせることで、安全で大量に作れる新しいワクチン生産法が注目しています。

見えない世界のはたらきを理解し、最新の技術で作物を守る。そんな研究は、これからの農業やバイオテクノロジーにとってとても重要です!

研究材料の植物

タバコ トマト トウガラシ ニンニク シロイヌナズナ アスパラガス イチゴ ジャガイモ ダイズ エンドウ ソラマメ

研究トピック3: トマトの翻訳開始因子eIF4E変異によるCMV抵抗性付与

研究トピック2: ダイズ栽培化の過程で選抜された古代ウイルス抵抗性遺伝子

研究トピック1: ウイルスの強毒化を防ぐエンドウの仕組みを発見

ウイルスはその高い増殖力や変異頻度のため, 薬剤耐性を獲得したり, 動植物の免疫機構を回避したりして病気を引き起こす強毒ウイルスに進化してしまう。このことがウイルス病の制御を困難にする。これに対抗して, エンドウは別々の免疫システム二つを協働させて, ウイルスが一方の免疫システムを回避するよう進化するともう一方の免疫システムにその感染がより強く阻害されるように仕組まれていた。このウイルスにトレードオフ(痛し痒し)を強いることで強毒ウイルスへの進化を防ぐこと(図参照)を厚見 剛 研究員(現, 国立研究開発法人産業技術総合研究所), 中原 健二植物病原学研究室 講師らの研究グループが発見した。進化が早いウイルスに対抗するための植物の防御戦略であると思われる。本知見を活用することで, 将来, ウイルス病を発症しない性質=抵抗性が永続する作物を育種するための新たな抵抗性育種技術の開発が期待される。本成果は2016年6月8日に米国微生物学会誌Journal of Virology (http://dx.doi.org/10.1128/JVI.00190-16)に発表された。また, 関連の総説が6月13日に米国植物病理学会誌Molecular Plant-Microbe Interactions (http://dx.doi.org/10.1094/MPMI-05-16-0103-CR)に発表された。

1 ウイルスにトレードオフを強いることで強毒化を防ぐ植物の仕組みを比喩的に表した変則ジャンケン.

ウイルスは後出しする権利(進化が速い)を持つが, その代わり植物は一度に二つの手を出す権利(同じウイルスに対する二つの免疫機構)を持つ. この時, ウイルスは引き分けに持ち込む(強毒化しない)しかない.